「来月からユニットのリーダーをお願いしたい。」
やす子は施設長から突然呼び出されてそう告げられた。先週、やす子が配属されているけやきユニットのユニットリーダー高橋から、今月いっぱいで退職することを告げられていために、施設長から呼ばれた時に胸騒ぎはしていた。確かに、やす子は年齢が自分より下である高橋のサポート役として、高橋が気付かないようなご利用者の細かな変化や、職員間のトラブルなどに介入し、問題が大きくならないよう、いつも気を使っていた。そのため、周りの職員からの信頼も厚く、「やす子さんがいない日は、大変なんだから。」とよく言われていた。そう言われると嬉しいのだが、それは、今のポジションにいるからで、いざ、自分が現場のリーダーになることを想像すると、どうしても悪い方向に考えが向かってしまう。かといって断ることは出来ず、他に適任と呼べる職員がいる訳ではなく、何から手を付ければいいのか。施設長からは、「今まで通りやれば大丈夫。」としか言われず、高橋もいなくなってしまった後は、相談する相手もいなくなってしまう。高橋からの引継ぎを半分上の空で聞きながら、やす子は今後について不安を募らせていた…
こんにちは、社会幸福祉士の古今屋です。
介護現場は慢性の人手不足、また、離職率も高く前任が抜けた穴を埋めるために急に役職が付くことがあります。冒頭の「やす子さん」のように、何の準備もしておらず、リーダーになるための指導も受けていない状況で、とりあえず役職を引き受けてしまったという経験がある方もいるのではないでしょうか。
そのようなスタートだと、最初は、分からないから仕方ないと言い訳できますが、2か月、3か月と経過するにつれて、言い訳も効かなくなり、利用者様のケアや家族対応、外部とのやり取りなど、日々の出来事を処理することに追われ、やがて全てが後手後手になってしまい、チーム全体が重苦しい雰囲気になってしまいます。
私自身、先の例と同様に、施設ケアマネから急に現場の介護主任に異動を命じられたことがあります。必死にやってきましたが、今振り返ると、何の方向性も示さず、ただ毎日のケアに追われており、周りの職員の方々はさぞ大変だっただろうと思います。それでも、労を惜しまず協力して頂けたので、感謝の気持ちは今でも忘れません。
ですが、リーダーになるスタートの段階から、ある程度の予備知識と方向性を持っていれば、円滑に進めることができます。
今回は、リーダーが最初に行うべき行動に焦点を当て、お伝えしたいと思います。既に、リーダーとして現場をまとめていらっしゃる方でも、まだ取り入れていない部分があれば、参考にして頂けると嬉しいです。
それでは、始めていきます。
リーダーを任されたら
介護のリーダーには、ご利用者の基本情報(生活歴、習慣、既往歴、服薬内容、ADLなど)の知識、高齢者特有の疾患などの基礎知識、介護技術といった、ご利用者のQOLを高めるためのスキル、ストレスケア、コーチング等、職員のサポートをするためのチームマネジメントのスキルなどがあります。
これらを全て備えたリーダーであれば、完璧でしょうが、それは難しいです。多くの場合、対ご利用者へのスキルは持ち合わせているが、労務管理を含めたチームマネジメントについてのスキルに不安を持っている方が多いように思います。
始めは誰でも、足りない部分が沢山あります。必要なスキルは、経験を積みながら、徐々に身に付けていくことも必要です。さらに不足している部分を埋めるためには、リーダーが一人で頑張るのでは無く、周りの職員から協力してもらい、補ってもらう必要があります。
そのために、職員のことを知るのがまずは、最初の行動です。
職員と対話する機会を作る
まず初めに行うことは、自分のチームの職員と対話をする機会を作ることです。立ち話や、数人が集まって行うのではなく、できれば個人面談のように、1体1で行うことが望ましいです。自分と気の合う職員とだけ…職場外で…ではなく、チームに所属する全ての職員を対象に、職場の会議室などプライバシーを守れる環境で行ってください。
対話機会を持つ目的は…
- 職員の思いを知る
- プライベートな情報を把握する
- リーダーの思いを伝える
リーダーは、チームをまとめ、ご利用者が望む生活を実現できるような環境を作っていくことが求められます。
よいチームを構築するために、まずリーダーは所属する職員全員を理解しようとする姿勢を見せるべきです。
1.職員の思いを知る
普段の業務や休憩中の会話から、ある程度の人となりは分かっていると思いますが、リーダーの場合は、さらに一歩踏み込んで職員のことを知る必要があります。普段から、どの様な思いを持って仕事をしているのかは、改めて聞いてみないと分かりません。仕事に対する情熱や、周りからは見えない、職員の苦悩を知ることは、職員を指導していく上でとても必要な視点です。
特に確認しておくとよい部分は
- 職員自身が思っている、(自分自身の)長所短所
- 仕事の中で、楽しみ、喜びを感じる場面
- 仕事の中で、辛い、苦しいと感じる場面
- 今の目標や、実現したいと思っていること(仕事上で)
これらを知ることで、仕事への思いを共有することが目的です。職員自身が感じているストレングス(強み)は、伸ばしていけるようサポートしていき、苦手に感じている部分は、チームの課題として改善していく姿勢を見せることで、安心感を持ってもらうことができます。対話をし、気持ちを言語化していく中で、職員の中にあった曖昧な思いが整理され、明確な目標が見いだされる場合もあります。
また、各職員の思いを知ることは、効果的なチームアプローチをする上でも必要なことです。職員の思いとチームアプローチの繋がりについては、後述します。
2.プライベートな情報を把握する
今の時代、必要以上にプライベートな話を聞き出すことはモラルに反する部分もあると思いますが、リーダーは、職員の生活状況をある程度、把握しておく必要があると、私は思います。家族状況等を知ることで、その職員が勤務外ではどのような生活をしているのかが見えてきます。「最近元気がない。」といった様子が見えると、家庭で何かあったのか尋ね、相談にのることもできます。
ただし、プライベートなことを聞く場合は、何のために聞くのかを伝え、職員の理解を得て抵抗なく話してもらえるようにしましょう。
3.リーダーの思いを伝える
職員の思いを教えてもらったら、次は、リーダー自身の考えを伝えることをしましょう。チームの方向性や、目標などを伝え共有することで、リーダーがいない場面でも、各職員が考え行動できるような指針になります。これが共有されていないと、リーダーが現場にいない時の判断に困り、休日でもリーダーに指示を求める連絡がバンバンきてしまう可能性も出てきます。また、ご利用者に対しても一貫性のないケアを提供してしまうことにも繋がりかねません。
業務の洗い出しを行う
施設介護員の場合、日々の介護業務以外に様々な役割を重複して受け持っていると思います。
例えば、
- 委員会活動
- 月の行事担当
- 居室やご利用者担当の仕事
- 環境整備(リネン交換や掃除)
- 懇親会の幹事
等々、様々な役割を持っているのではないでしょうか?
リーダーになったら、各職員に割り振られているこれらの役割を洗い出しましょう。
職員個人で受け持っている役割以外にも、全体で行っている仕事(定期的な環境整備、掃除等)についても書き出してみましょう。
職員自身、自分が抱えている仕事を把握できておらず、ただ黙々と目の前の業務を片付けている場合が多いです。常に追われている気持ちで仕事をすることは精神衛生上よくありません。
まずは、チーム全員が受け持っている仕事を見える化するだけでも、脳内が整理されて、思考がクリアになるはずです。
業務の見直しを行う
個人の業務を洗い出し、チーム全体が抱えている業務が見えたら、次は、業務をふるいにかけましょう。
介護の業務には、なんとなくで続けているもの、現状にそぐわないまま継続しているものなどが沢山あります。
ご利用されている方々に合わせた業務になっていたものの、時が経ち、利用されている方の顔ぶれが変わっても、見直しがされないままになっていませんか?
それらが積み重なり、重荷になり、本来優先されるべきケアの部分が疎かになってしまっている可能性もあります。
現状に合わせたマニュアルに改定する
そこから、さらに踏み込んで、今後も行う必要がある仕事と、続ける必要のない仕事を仕分けし、新しいチームのマニュアルを再構築していきましょう。
新しいマニュアルはをリーダーが叩き台を作り、他の職員に意見をもらうでもいいですし、チームメンバーで話し合いながら作り上げていくのでもいいと思います。ただし、リーダーが一人で決めず、必ずチームメンバーの意見をもらうことが、納得して仕事を行ってもらう上で必要です。
そうでないと、リーダーが見ていない時には手を抜いたり、決められたケアをせず、自分の思う方法で介護を行うなど、効果的なチームアプローチが行えない状況になってしまいます。
そうして出来上がった、新しいマニュアルを実行し、各職員に状況を確認しながら、適宜修正を行うPDCAサイクルを繰り返していきましょう。
まとめ
今回は、介護現場のリーダーになった時の、最初の行動について考えてきました
まずは、チームのメンバーこのとを知ろうとする姿勢を見せ、信頼関係の土台を築く。
次に、チーム全員の意見を形にしたマニュアルを作っていく。この2つです。
介護の現場は、24時間365日切れ目なくケアを提供します。リーダー1人が住み込みで常に現場にいる訳にはいかないので、、チームの職員が交代で入れ替わり、協力し切れ目なくケアを積み重ねることで、ご利用者の生活が守られていきます。
その際、各職員の思いにズレがあると、勤務している職員によってケアが変わってしまいます。ケアの方向性が定まっていないことで影響を受けるのはご利用者です。それがBPSDの出現の一因になりえます。
しかし、ただ単に上司等から決められた方法を押し付けられ、納得しないままでは良いケアにはなりません。職員の思いを知り、メンバーの思いをつなぎ合わせることが、より良いチームアプローチをしていくための第一歩となるはずです。
また、マニュアルの作成は、職員の個性を抑えるのではなく、働きやすい環境を作り上げ、個性が発揮できる場面を作るためのものだということも覚えておいてください。
リーダーとして働く皆さんの思いがチームのメンバーに伝わり、大きな力となることを期待しています。それが、ご利用者のより自分らしい生活の実現に繋がるはずです。
ご利用者に対する責任、職員の愚痴、人間関係の複雑さ等で、難しい状況にいる、リーダーが沢山いると思います。
皆さんの日々の努力は、素晴らしいと思います。
共に、より良い介護へ向かっていきましょう。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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