こんにちは、社会幸福祉士の古今屋です。
「祖母を介護している私の母が辛そうにしている。なんて声を掛けていいか分からない。」
これは、以前、私が友人から受けた相談の内容です。
「家族や、近い親族が介護を必要とする状態になった。」
皆さんは、その時の準備をしていますか?
- 「両親が元気だから、考えたことがない。」
- 「いつかは介護が必要になると思うが、まだ、早いと感じる。」
- 「準備が必要なことは分かっているが、何をしたらいいのか分からない。」
このように考えている方が多いと思います。
昨今、厚生労働省では「介護離職ゼロ」を掲げ、様々な取り組みを行っています。
これは、介護を必要とする方が、今後、急激に増加していくことに加え、家族を介護することを理由に仕事を辞めることのマイナス面が大きく、介護離職について社会全体で考える時期が来ているからです。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の調査によると、介護離職したの多くの方が、その後、様々な面で負担が増加したとの結果が出ています。
離職者の離職状況
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
•離職時の就業継続の意向を聞いたところ、男女ともに5割強が「続けたかった」、2割前後が「続けたくなかった」とし、就業継続を希望していた人が多いことがわかる。
•離職後、「負担が増した」(「非常に負担が増した」、「負担が増した」)としている人は、
「精神面」について64.9%、
「肉体面」について56.6%、
「経済面」について74.9%であり、いずれも負担が減るのではなく、むしろ増したとの回答割合が高い。
•離職後再就職をしていない人は、24.5%にとどまっている。離職前と同様「正社員」で再就職している人も約5割いる。
•再就職した人について、離職から再就職までの期間をみると、1年以内に再就職している割合も、男性で51.1%、女性で35.7%と少なくない。
「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」
(平成24年度厚生労働省委託調査)より
始めに
「いつまでも健康に過ごしたい。」「親にもずっと元気でいてほしい。」
これは、誰もが願うことだと思います。
しかし、高齢になると突然の病気や怪我により、それまでできていたことが急にできなくなり、
「要支援」「要介護」といった状態になる可能性が高くなります。
先ほどの友人の話の続きですが、
詳しく話を聞くと、友人のお母さんは、同居している義理の母親を介護しているが、義理の母親本人は認知症があり会話もままならない状況、離れて暮らす親族からはそんな状況を理解してもらえず、状態が悪化していく様子に苛立ち、友人のお母さんの介護が悪いと責められているとのこと。
友人のお母さんは、何のために自分は介護をしているのか分からなくなり、苦しんでいる様でした。
私は友人に、
「自分達、介護士は仕事として介護をし、家に帰ってからは介護から離れて自分のために時間を使うことができるが、家族介護をしている方は、家庭が介護の場であるために、休息する時間も場も大きく制限される。家族を介護することの大変さ、理解者がいないことの苦しさが良く分かる。そんな中、献身的に介護をしているあなたのお母さんはすごい。お母さんの頑張りを理解してくれている人が必ずいることを伝えてほしい。」
と返信しました。そして、友人には、お母さんの理解者になってほしいこともお願いしました。
友人のお母さんのように、家族介護は時間的、肉体的、精神的にも負担が大きい部分があります。
もちろん、今までお世話になった親や親族に恩返しをしたい気持ちも良く分かりますし、介護を通して、家族の絆が深まったり、共に笑い合う素晴らしい経験を得ることもできます。実際、私も、その経験があるからこそ、今でも現役の介護士として働いています。
だからこそ、いざ、介護が必要になった時でも慌てず、「自分達が考える理想の介護」ができるような心構えをしておくことが必要です。
今回は、高齢者介護の現状を知って頂き、
- なぜ、介護離職を防止するべきなのか?
- 高齢者介護と向き合うには何が必要なのか?
をお伝えしたいと思います。
そのうちと後回しにせず、今できることを知ってもらい、いざ家族介護が始まった時には、心穏やかに向き合うことができるような準備をしておいてほしいと思います。
介護離職防止についての対策にご興味がある方にも、是非、読んで頂きたいです。
介護離職とは
介護離職とは、仕事を辞めて家族の介護を行うことを指します。
なぜ、介護離職してしまうのでしょうか?
実際に家族介護を理由として離職した方に対して行った離職理由の調査内容をご覧ください。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」
(平成24年度厚生労働省委託調査)より
多くの方が「仕事との両立が難しい職場だったため」を理由に挙げています。
それ以外にも、離職する理由には以下の様に様々なものがあると思います。
- 大好きな親のために、親孝行として全力で介護したい。
- 元々、仕事に対する不満が強く、これを機会に退職したい。
- 急に親の介護が必要になったが、仕事をしながらでは面倒を見られない。
- 親の状況が分からないために、とりあえず仕事を辞めてから考えよう。 等々…
どの場合も、ご自身でよく考えて出した答えだと思います。
しかし、高齢者介護は、突然始まり、終わりの期間の見通しが立てにくいという特徴があります。
それを理解せずに、勢いで離職してしまうと、後々取り返しがきかない事態を招くことになります。
高齢者介護の特徴についての詳しい内容は後述するとして、家族介護は他人事では無いことを知って頂くために、要介護者の現状からお伝えしたいと思います。
家族介護を担っている主介護者の現状
どのくらいの年齢になると介護が必要になるのでしょうか?
当然、人によって差はありますが、内閣府の令和4年度版高齢社会白書によると、75歳以上になると急激に何らかの介護を必要とする方が増加する、とのデータが示されています。
その子供世代と考えると、現役の中心である働き盛りの方々が多いです。
次に、要介護者(何らかの介護を必要とする方)等の介護を日常的に担っている、主な介護者の内訳を見ると、
2022(令和4)年 国民生活基礎調査より
家族介護を担っているのは、同居の家族が半数近くの45.9%を占めており、その内訳は、配偶者 22.9%、子 16.2%、子の配偶者 5.4%となっています。別居の家族は11.8%であり、ケアの社会化を目指して始まった公的介護保険誕生から20年以上経過した今でも、主な介護者の半数以上は家族となっています。
ご両親のどちらかが健在であれば、かた方が共に生活しながら介護をできますが、ご両親の2人とも介護が必要になる、1人しかいない親の介護が必要になる場合などは、その子供や子供の配偶者が主介護者となります。
つまり、これまでの内容を踏まえると
40~50歳代の働き盛りに家族介護が重なる可能性が非常に高い
ということです。
その上、この年代の方は、子育て世代でもあります。
働きながら、子供を育て、親の介護を行う。言葉だけを聞いても、その大変さは想像に難くないと思います。
周りの協力を得ながら、家族介護をしていくことが必要になっていきます。
高齢者介護の特徴
高齢者介護には、高齢であるために考慮しなければならない、特徴が様々あります。
その中でも、家族介護に備える上で、知っておくべきことについて以下の4つをお伝えします。
- その1介護が必要になる年齢
- その2介護期間
- その3介護費用
- その4介護の負担を増加させる要因
介護が必要になる年齢
前項でも触れましたが、厚生労働省の調査でも、75歳以上のいわゆる「後期高齢者」になると、何らかの支援が必要になる方の割合が急激に高まるという結果が出ています。
内閣府 令和4年版高齢社会白書(全体版)より
要介護者で見ると、65~74歳までは3%程度だったものが、75歳以上になると23.1%、つまり、5人に1人が要介護者となります。
要介護になる原因は様々ですが、ある程度の年齢になると、介護を要する状態になる可能性が高くなることを家族は認識しておく必要があると言えます。
介護期間
介護期間とは、実際に家族が介護を担う期間を指しますが、以下のようなデータが出ています。
生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査 令和3年度」より
上の表を見ると、介護期間について、「4~10年未満」が31.5%と最も多く、次いで「10年以上」が17.6%、「3~4年未満」が15.1%、「2~3年未満」が12.3%となっており、人によって介護期間に大きな差があります。
平均で見ると、61.1ヵ月、つまり5年以上、介護が続く可能性があります。
長期間に渡り介護をしていくことを想定しながら、家族介護にあたる必要があると言えます。
このように、突然始まり、いつまで続くかの見通しを立てにくい
始まりと終わりの予測を立てるのが難しい
のも、高齢者介護の特徴です。
介護費用
実際に介護をするにはどれくらいの費用が掛かるか?
皆さん気になるところだと思います。
前項でお伝えしたように、平均5年以上の期間続くと思われる家族介護を持続していくためには、費用面についても知っておく必要があります。
介護に要した費用については、以下のデータが参考になります。
生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査 令和3年度」より
介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)のうち、一時費用(住宅改
造や介護用ベッドの購入など一時的にかかった費用)のこれまでの合計額をみると、「掛かった費用はない」が15.8%となっていますが、それ以外では「15万円未満」が18.6%で最も多く、「15万円以上」の費用が掛かる場合もあり、平均すると74万円となっています。
この部分については、各家庭によって費用の使い方に差があります。
例えば、介護用のベッドについては、購入すれば数十万円するものでも、公的介護保険サービスである、介護用ベッドのレンタルを利用した場合は、月額1.000円~2.000円程度で十分必要な機能がついたものを借りることができるので、初期費用を抑えることが可能となります。
このように公的介護保険を使用することで、費用が抑えられる部分が多くあります。担当のケアマネジャーに相談し、予算の範囲内でできる最低限の準備を考えることが必要です。
次に、介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)のうち、月々の費用(月々支払っている(支払っていた)費用)をみると、
生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査 令和3年度」より
「15万円以上」が16.3%で最も多く、次いで「1万~2万5千円未満」15.3%、「2万5千円~5万円未満」12.3%、「10万~12万5千円未満」11.2%となっています。1カ月当たり平均で8.3万円となっています。
費用にばらつきがありますが、これは、要介護者がどこで生活しているのかで、大きく費用が異なるためです。
介護を行った場所別に見た、介護費用の月額データがこちらです。
生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査 令和3年度」より
在宅で介護を行った場合は、「不明」を除くと「1万~2万5千円未満」が一番多く22.3%、施設で介護を行った場合は「15万円以上」が一番多く30.7%となっており、平均で見ると、在宅の「4.8万円」に比べ施設では「12.2万円」となり、施設の方が多く費用が掛かる状況になっています。
公的介護保険を利用しながら入居できる施設といっても、比較的低い費用で入居できる施設から、費用の高い高齢者住宅等、形態は様々です。
施設で生活されている方の場合は、家族が介護を行う場面は限られており、日常的な介護は、施設に勤務する私のような介護士が担うことになります。
在宅で生活されている方の場合でも、訪問介護やデイサービス等の在宅サービスと短期間の施設入居(ショートステイ等)を併用しながら、家族も自分の時間を確保し、要介護者ご本人も、家族以外の方との交流機会を作り気分転換を図ったり、リハビリテーションを受け身体機能の維持、向上を図ることもできます。
各種介護保険サービスを組み合わせながら、お1人おひとりに合った生活をコーディネートすることが可能であるために、介護費用にばらつきが見られると言えます。
家族介護の負担を増加させる要因
実際に家族介護が始まるとどのような生活になるのでしょうか?
家族を介護したことがある方を除いて、「介護」の現実を知らない方が多いと思います。
私が介護現場に携わってきた中で学んだ、一般的には知る機会が少ない、高齢者介護で起こりうる、負担を増加させる要因についてお伝えします。
まず、家族介護では何をすればいいのでしょうか?
洗濯や掃除、食事の支度等、家事のサポート…それだけでよいのでしょか?
気力、体力、身体機能の衰えにより一人で生活を行うことが大変になってきている、介護保険の区分で言えば要支援の状態の方であれば、前述したような家事援助などの支援だけで、生活を維持することも可能です。
以下に、要支援状態についての定義を載せます。
「要支援状態」の定義(法第7条第2項)
身体上若しくは精神上の障害があるために入浴、排せつ、食事等の日常生活における基本的な動作の全部若しくは一部について厚生労働省令で定める期間にわたり継続して常時介護を要する状態の軽減若しくは悪化の防止に特に資する支援を要すると見込まれ、又は身体上若しくは精神上の障害があるために厚生労働省令で定める期間にわたり継続して日常生活を営むのに支障があると見込まれる状態であって、支援の必要の程度に応じて厚生労働省令で定める区分(要支援状態区分)のいずれかに該当するものをいう。
※厚生労働省令で定める期間:原則6ヵ月
厚生労働省HP 要支援状態、要支援者の定義より
上記のような、要支援の状態、または、若い時に比べて体力は低下しているが、自分の身の回りのことはできている自立の状態であれば、常時介護者が近くにいる必要はなく、必要な部分に支援を行うことで生活を維持できるために、介護者の負担も少ないです。
一方、介護保険の区分で言う要介護の状態の方は、自分の力だけでは日常生活を送ることが困難で、他者の介護を必要とする状態にあります。
以下に、要介護状態の定義を載せます。
「要介護状態」の定義(法第7条第1項)
身体上又は精神上の障害があるために、入浴、排せつ、食事等の日常生活における基本的な動作の全部又は一部について、厚生労働省令で定める期間にわたり継続して、常時介護を要すると見込まれる状態であって、その介護の必要の程度に応じて厚生労働省令で定める区分(要介護状態区分)のいずれかに該当するもの(要支援状態に該当するものを除く。)をいう。
※厚生労働省令で定める期間:原則6ヵ月
厚生労働省HP 要介護状態、要介護者の定義より
定義上では「常時」と記載されていますが、これは、24時間常に誰かが隣に寄り添っていなければならない訳ではありません。介護度にも1(軽度)から5(重度)があり、その区分により介護が必要な量も違いますし、その方の低下している機能の状態によっても、支援の内容は大きく変わります。
但し、このような要介護の状態にある方の多くは、1人で行える生活動作が限られているために、必要な時に介護が受けられる環境を整える必要があります。
例えば、
お風呂に入りたいが、自分一人では浴槽の出入りができない場合
↓
浴槽内の出入りを介助してくれる方が必要となります。
他には、
認知症のある方が、予約日に病院に行く場合
↓
- 予定日を教えて一緒に準備をしてくれる方
- その病院へ連れて行ってくれる方
- 自分の最近の体調を正確に医師に伝えてくれる方
- お金を管理し支払いをしてくれる方
- 自宅まで連れて行ってくれる方
- 処方された薬を飲み忘れないように準備してくれる方等々…
その方の病状により、これら全てに対して支援をする必要のない方も沢山いますが、一つのことを行うにも、沢山のことを積み重ねなければなりません。
このように要介護状態にある方の場合、その方が日常生活を送るために必要なサポートが多くなり、それに伴い介護の量も多くなります。
ここで、家族介護の負担を増加させる1つ目の要因をお伝えします。
それは、要介護者本人の残存機能を無視した過剰な介護をしてしまう可能性があることです。
どういうことか説明します。
高齢になっても、自分らしく生活することが大切です。これを守るには、QOL(クオリティーオブライフ)の向上が必要です。
QOLとは、生活の質のことであり、好きな場所で、好きなことを好きな人と行うといった、誰もが求めている幸福を実現していくことを指します。QOLを向上させるためには、本人のできる能力を奪わずに、介護者は、本人が求める生活のサポート役に徹する必要があります。
私達、介護士は”自立支援”という言葉の下、出来る限り本人の身体機能や判断力など(残存機能)を引き出しながら、本人が望む生活を実現するために、不足している部分を補う介助を行うことを念頭に置いて介護を行います。
ケアマネジャーがケアプランを作成する際にも、
- どんな生活を送りたいのか(インテーク)
- 現時点で、本人はどこまでできるのか(アセスメント)
- どの様な支援があれば実現できるのか(プランニング)
- 実際に必要な支援を組み合わせる(マネジメント)
といった、経過を辿りながら進めていくことを考えると分かりやすいと思います。
ところが、家族が介護を行う場合
本人の残存機能を考慮せず、先回りの介護をしてしまう場合があります。
高齢者本人のペースに合わせて行うには、時間が掛かりますし、高齢者の方自身も、家族に甘えてしまいできることでも任せてしまう状況が見られます。
その結果、家族の介護量が増加する上、本人のできることが失われていき、更に介護の負担が大きくなるという悪循環を生むことに繋がります。
このような状況にならないためには、介護を家族だけで抱え込まず、専門家の協力を得ることが必要です。
ケアマネジャーなどの専門家が関わることで、本人の力量を見極め、本人にも家族にも無理のない生活を整えましょう。
次に家族介護の負担を増加させる要因の2つ目です。
それは、排泄トラブルの出現です。
高齢になると、機能低下や疾患により、排泄機能に障害が起こる場合があります。
よく見られるのが
- 膀胱の機能低下により起こる、頻尿。
- 筋力の低下による各種失禁。
- 認知症による、認知機能の低下から発生する排泄行動の障害
等があります。
最後まで尿意や便意があり、失敗することがほとんどない方もいます。
しかし、多くの方は、何らかのトラブルを抱えており、自分だけで処理を行うことが困難になります。
認知症を抱えた方の場合は、特に配慮が必要になります。
「トイレの場所が分からない。」「尿、便意を感じない。」「汚れていても気付かない。」
といった状況から、介護者が定期的にトイレに誘導したり、汚物の処理をしたりする必要があります。家の中が不衛生になったり、本人の皮膚トラブルにつながる可能性も高く、介護者の負担が大きくなる部分です。
これらは、「トイレを認識しやすい環境を整える。」、「本人にあった排泄用具を使用する。」ことなどで、負担をかなり軽減することができます。
ヘルパーなどの介護の専門家は、様々な方のケアの経験を持ち、実践していますので、直接介護を受けるだけではなく、介護者の負担を軽減できるようなアドバイスを求めることをおすすめします。
この章の内容は、介護について不安を大きくしてしまう内容になってしまったかもしれません。
全ての高齢者がこのような状態になる訳ではないので、過剰な心配をする必要はありませんが、介護をする上で起こりうるリスクを伝えることで、その場しのぎの勢いで動かず、周りの協力を受けられる体制を築くことの大切さを感じて頂けたらと思い、書かせてもらいました。
介護離職予防のための制度
ここまで、高齢者介護の現状をお伝えしました。
家族介護では、周りの協力を得ながら、介護者が無理なく介護を継続できる体制を構築することが大切と前章で述べました。
では、実際に家族が介護を必要とする状態になった時、どの様にすれば良いでしょうか?
ここでは、介護離職を防止し、仕事と家庭の両立を図るための制度を紹介します。
公的介護保険の利用
まずは、公的介護保険の利用について、介護が必要になった段階で最初に行うべきことをお伝えします。
家族が介護を必要とする状態になった。もしくは、1人での生活に支障が出て来ている。
この様な場合の最初のアクションは、
「地域包括支援センター」に相談することです。
地域包括支援センターとは、
地域包括支援センターは、「地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために
介護保険法第115条の46より
必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に
支援することを目的とする施設とする 」
上記を実施するための機能を備えた、福祉の専門家によるチームアプローチを行う施設です。
厚生労働省 地域包括支援センターの業務 より
地域包括支援センターの設置主体は、市町村ですが、在宅介護支援センターの運営法人、社会福祉法人、医療法人等の市町村から委託を受けた法人も設置することができます。
介護保険により設置が義務づけられているために、全国どこの地域でも同様の相談が無料で受けられます。
地域で暮らす高齢者に関する総合的な相談の窓口になっており、介護保険サービスを利用されていない方の相談も受け付けています。
市町村からの委託を受けた法人が地域包括支援センターの機能を担っている地域もあり、その施設により、名称が「地域包括支援センター」という名前になっていない所もありますが、お住いの地域の包括支援センターで調べれば、連絡先はすぐに見つかります。
「何からすればいいか分からない。」そんな時は、まず、こちらに相談してください。
何が必要なのか、どんな支援があるのかを知ることから始めましょう。
仕事と介護を両立するための制度
介護保険の利用に向けて、相談を始めることと同時に、行うべきことがあります。
それは、
自分が勤めている会社にも現状を伝え、理解してもらい協力を得ることです。
国を挙げて「介護離職ゼロ」の取り組みを行うようになった背景には、既に、多くの方が家族介護のために離職をしたり、会社側に家族の介護をしていることを言い出せずに、1人で背負い込み苦しんでいる方がいるという現状があります。
厚生労働省が作成した、介護離職を未然に防止する企業に向け、仕事と介護を両立できる職場環境の整備促進に取り組むことを示すシンボルマークです。
冒頭でもお伝えしたように、介護離職した後に離職前よりも、身体的、精神的、経済的に負担が増加した方が多いというデータが出ていることからも、介護離職を防ぎ、仕事と介護の両立が図れる体制を作ることの重要性が伺えます。
とはいえ、仕事と介護を本当に両立できるのか、不安に思っている方が多いのではないでしょうか?
以下は、実際に介護を担ている方、担っていない方を含めた、具体的にどんなことに不安を感じているかのアンケート結果です。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」
(平成24年度厚生労働省委託調査)より
中身を見ていくと、「仕事を代わってくれる人がいない」「人事評価に悪影響が出る可能性がある」「両立支援制度を利用しにくい雰囲気がある」「両立支援制度を利用している人がいない」「相談する部署等がない、わからない」等の職場環境の問題と、「利用方法や内容がわからない」といった、両立支援制度や公的介護保険制度が浸透していない等の問題が見て取れます。
次に、実際に介護を担っているが両立支援制度を利用していない方を対象にしたアンケート結果です。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」
(平成24年度厚生労働省委託調査)より
このアンケートでは「介護に係る両立支援制度がないため」が、就労者、離職や共に多くなっています。離職者については、45.3%の方が、自分が勤めてている企業には両立支援制度が無い(利用できない)と思い込み離職してしまっていた状況があります。
しまし、実際には、家族介護者が利用できる介護休暇、介護休業は「育児・介護休業法」の中に規定されている法律上の義務であるために、常時労働者数が10人未満の企業等の就業規則作成義務が無い場合や、就業規則の中に規定がない場合でも、一定の条件を備えた従業員であれば、取得することが可能です。
以下で、家族介護者が利用できる両立支援制度をお伝えします。
介護休暇
介護休暇とは、要介護者にある家族1人につき、年5日まで取得できる休暇のことです。1日単位、または、時間単位での取得も可能です。
5日間は短く感じるかもしれませんが、介護休暇は、家族介護を始まる場合などの支援体制を築くために有効に活用できる制度です。
例えば、入院していた家族の退院が近づいてきたが、介護が必要な状態となっている場合
以下のような流れになります。
- STEP1地域包括支援センターへの相談
- STEP2要介護認定の申請
・申請書の提出
・調査への立ち合い等 - STEP3退院に向けた関係者会議出席(退院前カンファレンス)
- STEP4公的介護保険サービス利用開始に向けた関係者会議出席
要介護認定の申請等は、地域包括支援センターの職員や、ケアマネジャーが代行で申請することも可能ですが、上記以外にも、自宅の改修が必要な場合の業者との調整、退院日の送迎など細々した部分に時間を使うことになります。
退院に向けての準備には、まとまった時間よりも、スポットで行動する時間が多くなります。
このように、介護休暇は、会議への出席や調整等、必要な時に分割して取得することで、仕事を続けながら利用することを目的とした制度が介護休暇です。
ただし、給付金の制度が無いために、有給とするか無給とするかは、企業ごとの判断となります。その部分については、利用前にご自身が勤める職場の職務規定や上司に確認をして下さい。
介護休暇について、詳しい内容を知りたい方は、以下を参考にして下さい。
介護休業
介護休業は、要介護状態にある対象家族1人につき通算して93日、上限3回まで分割して休みを取得できる制度です。
この制度はどのように活用するためのものでしょうか。
先ほどの様に、家族が要介護状態になって退院した場合を例に考えます。
支援体制を整え自宅に戻ってきたものの、実際に生活を始めてみると、当初予想していた生活とは違った状況になることがあります。
この様な状況はよく見られます。
多くの場合は、入院等環境が大きく変わったことにより、生活のペースが崩れたことが原因であり、生活のリズムが出来ると、改善されたり、本人自身も身体との付き合い方を覚えていき、穏やかな生活に移行していきます。
上記の様に、環境が変わった当初は生活のペースが出来るまである程度の時間を要し、他者のサポートが必要になります。
どのくらいで生活のペースができるかは、個人差があるので一概には言えませんが、93日という期間があれば十分だと思います。逆に、期限を設けず、常に家族が近くにいる状況が続くと、その状況が当たり前となってしまい、お互いに離れることが難しくなってしまいます。
家族介護に専念することのマイナス面については、ここまで読んだ方であれば、十分理解して頂けていると思います。
介護休業に関しては、介護休業給付金の制度があります。
介護休業について、詳しい内容を知りたい方は、以下を参考にして下さい。
その他の制度
介護休暇、介護休業以外の制度として、就業時間の短縮や制限といった制度もあります。
- 短時間勤務制度
- 所定外労働時間の制限
- 時間外労働の制限
- 深夜業の制限
等です。
まとめ
今回は、家族介護の現状をお伝えし、どのような備えが必要かを書きました。
1人で抱え込まず、周りに協力を得ながら、介護離職せず、仕事と介護を両立して頂きたいと思います。